最近はVitalを使って楽曲制作をしていますが、思い描いている理想に応えてくれるので、Vital(バイタル)を徹底的に掘り下げて使いこなしてみることにしました。
有料の定番ウェーブテーブル・シンセ(波形を滑らかに変形させて音を作るシンセサイザー)も多分期待に応えてくれると思いますが、「Vitalのこの機能じゃなきゃ作れない音もある」と思うので、最近はほぼメインシンセとして愛用しています。
今回は、実際にトラックメイクの制作で「こう使ったら、一気に音がプロっぽくなった!」と感動した5つの実践的なアプローチをシェアします。
1. フューチャーベースのリードで大活躍した「Spectral Warp」の実験
最初に、Vitalが自分の予想を超えていると感じた、フューチャーベースやトラップの主役になる「喋るような質感のシンセリード(主旋律を奏でる音色)」を作ろうとしたときからお話します。
普通のウェーブテーブル(音の元になる波形のセット)をLFO(ロー・フリーケンシー・オシレーター:音量を周期的に揺らす装置)で動かすと、平坦で、どこかで聴いたことのあるチープな音になりがちです。
その場合は、オシレーター(音を発生させる心臓部)の横にあるWarp(波形を変形させる機能)を「Spectral(スペクトラル:周波数成分を直接いじるモード)」の「Vocode(ボコード)」や「Formant(フォルマント:人間の声の特性)」に切り替えてみます。

実際にやった設定
- SAW(のこぎり波)のウェーブテーブルを選ぶ。
- Warpモードを「Formant Scale」にする。
- 変調のツマミを動かすと、波形がまるで「あ・い・う・え・お」と喋っているように変化する。
このWarpのツマミに対して、少し速めのLFOをアサイン(機能を割り当てること)して、さらにフィルターのEnv(エンベロープ:音の立ち上がりや減衰を時間経過で変化させる機能)でアタック(音が鳴り始める瞬間)を強調します。
これだけで、一気に海外のトッププロが鳴らしているような、有機的でカットアップ(声を切り貼りしたような効果)っぽい、存在感抜群のリードに変貌します。
普通のシンセだと、後から別でエフェクトをいくつも挿さないと作れない音が、オシレーター単体の中で完結します。
グロウルの壁を突破した「LFOの多段がけ」とRemap
ダブステップや重厚なベースミュージックに欠かせない、あの「グラグラ、ギザギザ」と激しくうねるGrowl Bass(グロウル・ベース:猛獣の唸り声のようなベース音)。
これを作ろうとするとLFOのスピードが一定すぎて、途中で展開が退屈になりがちで機械的で冷たい感じになるかもしれません。
そこで試してほしいのが、Vitalの強みである「モジュレーション(音に動きをつける設定)の多段がけ」です。
構築したルーティング(音の信号の流れ)についてです
- LFO 1:フィルターのカットオフ(高域を削るツマミ)を激しく上下させて、グロウルの「ワウワウ」いう基本の周期を作る。
- LFO 2:この「LFO 1」のAmount(モジュレーションの適用量、つまり揺れの激しさ)に対してアサインする。

こうすると、ベースが「ワンワンワン」と均一に鳴るのではなく、「ワワン、ワン、ワワワワン!」と、揺れの激しさ自体がさらに別の周期で波打つようになります。
さらに、Matrix(モジュレーションの割り当てを一覧管理する画面)を開いて、Remap(マッピングのカーブを手動で書き換える機能)を使います。
直線のグラフを、ガタガタの階段状や、急に跳ね上がるカーブに変形させます。
この設定をすると、ベースの動きに「人間の手でツマミをめちゃくちゃに回したような、予測不能な生命感」をプラスできます。
楽曲のドロップ(EDMなどのサビにあたる盛り上がるパート)で流したときの、フロアを圧倒するような野生的なエネルギーは、このLFOの多段がけで生み出せます。
3. 芯を残したまま壁を作る「Stereoソース」の超ワイド音響
音を左右に広げて、トラック全体を包み込むような壁のようなパッド(背景で鳴る持続的な音色)を作りたい場合のお話をします。
その際に、最初にやるのがUnison(ユニソン:同じ音を複数重ねてわずかに音程をズラし、厚みを出す機能)の数を増やすことだと思います。
ですがその際に、ユニソンを上げすぎると、左右には広がるものの、音がボヤけて真ん中の芯(芯のある低音やアタック感)がスカスカになってしまうと思います。そうなるとミックス(各楽器の音量や音質のバランスを整える作業)で行き詰まってしまうことも。
これを解決してくれるのが、Vitalの特殊なソースである「Stereo(左右のチャンネルで異なる変化を与えるモジュレーション源)」です。
芯を落とさずに広げる手順
- オシレーターのWarp(変形ツマミ)やフィルターのカットオフに対して、画面右下のソース一覧から「Stereo」をドラッグ&ドロップする。
- 適用量をほんの少し(数パーセント)だけ上げる。

こうすると何が起きるかというと、左耳からは「少しフィルターが閉じた音」、右耳からは「少しフィルターが開いた音」が同時に聴こえるようになります。
ユニソンやコーラス(音を揺らして広げるエフェクト)のように位相(音の波のタイミング)を狂わせるわけではないので、音の芯がまったくブレなくなります。
キックやスネアといったセンター(真ん中)に居座る主役の邪魔を一切せず、それでいてステレオの端から端まで綺麗に音が満たされる最高のシンセパッドやコードバッキング(和音の伴奏)が作れるようになります。
4. ドライブ感で音を太くする「2基のフィルター+エフェクト」の裏技
低音がスカスカなトラックは、スピーカーで聴いたときにどうしてもチープに聴こえてしまいます。特にトラップの808ベース(重低音を強調したベース)や、ハウスのPluck Bass(アタックが短く歯切れの良いベース)は太さが命です。
サチュレーター(音を歪ませて倍音を加え、太くするエフェクト)を後から挿してもいいのですが、Vitalの中で「2基のフィルター(音を削るフィルター)を直列(順番に通すルート)で繋いで歪ませる」やり方に変えてから、ベースのビルドアップ(音のエネルギーが徐々に高まる質感)が劇的に変わりました。
重低音を極太にするルーティング
- オシレーター1の出力を「Filter 1」へ送る。
- Filter 1の種類をアナログ風の「12dB Analog」にし、Drive(音を過大入力して歪ませるツマミ)をグッと上げる(ここで心地よい歪みが加わる)。
- Filter 1の出力をそのまま「Filter 2」へ直列でルーティングする。
- Filter 2で、歪みによって出てすぎた超高域(ノイズ成分)を優しくカットして整える。

さらに仕上げとして、内蔵のFX(エフェクトセクション)にあるディストーション(激しく音を歪ませるエフェクト)を「Hard Clip(限界を超えた波形をスパッと切り落とす過激な歪み)」モードで薄くかけます。
この「フィルターでのドライブ」と「エフェクトでのクリッピング」の2段階構成にすることで、デジタル特有の痛い高音を出さずに、ローミッド(中低音域の腰がある部分)がガツンと前に出る、クラブのシステムでもしっかり鳴るベースが作れるようになります。
5. 近未来感を一瞬で演出する「Text-to-Wave」の遊び心
最後に、Serumで出せないような音作りが可能な「Text to Wavetable(テキストから波形を生成する機能)」です。無料のBasicプランと$25のProプランでは5回/1日までで、ProとSubscribeプランは無制限で使用できます。
文字通り、テキストボックスに英語のフレーズを入力すると、人工知能的なアルゴリズムがその発音を解析して、1本のウェーブテーブル波形に変換してくれます。
楽曲のアクセントに使った手法
- ウェーブテーブル画面を右クリックしてText to Wavetableを選択、テキストに「Welcome to the future」や「Danger」といったフレーズを打ち込む。
- 生成されたウェーブテーブルを、LFOで最初から最後までスキャン(波形の再生位置を移動させること)するように設定する。
- 鍵盤を押すと、「ウェルカムトーターフューチャー……」と不気味に、かつスタイリッシュにシンセが喋る。

ボコーダー(歌声をシンセの音と合成する装置)をセッティングするのって結構面倒くさい場合でも、これなら数秒で「誰も持っていない自分だけのボイス風ウェーブテーブル」が作れます。
これを少し歪ませて、Lo-Fi(あえて音質を落としてレトロにする効果)なエフェクトをかけ、曲の展開が切り替わる直前のFill-in(フィルイン:フレーズの合間に入れる短いキメのフレーズ)に仕込むと際立ちます。
キラーパーツとしても「あのSFっぽいサイバーな音どうやって作ったの?」と聞かれるほど効果的です。
結論:Vitalは「弄る楽しさ」を教えてくれるラボ
Vitalを使っていて一番感じるのは、画面が見やすいということ。すべてのモジュレーションの動きがカラフルに、リアルタイムに動くアニメーションにみとれてしまいます。
以前は、プリセット(あらかじめ作られた音色データ)を選んで、ちょっとリバーブ(残響を加えるエフェクト)を足すくらいで満足していました。
でも、Vitalの「視覚的にすぐ繋がって、結果が目に見える」構造のおかげで、「ここにこれをアサインしたらどうなるんだろう?」という実験のハードルが下がりました。
もし、「最近どのシンセを鳴らしても自分の曲が同じように聴こえるな……」と停滞期を感じている方がいたら、ぜひ一度、プリセットを全部クリアした初期状態のサイン波(最もシンプルな丸い波形)から、この記事のルーティングを試してみてください。
きっと、新しい音作りのアイデアが溢れてきて、次のトラックメイクがもっと楽しくなると思います。最後までご覧いただきありがとうございました。
映像に馴染む音作りにも対応できるVital。もしよかったら、こちらの記事もご覧ください。生音のサンプリングファイルから音を作る方法についてもお話しています。

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